捕獲(3)


「っふ……」

 体内からずるりとローグ自身が引き抜かれる。その感触にプリーストが体を跳ねさせる。下から貫くモノがなくなり、支えを失った体は床にくずおれるようにして膝をついた。
 法衣の裾が軽く引っ張られる。何事かとのろのろと顔を向ければ、血と己の体液とで濡れ光る自身を法衣で拭うローグの姿があった。まだ息も整わぬ身でありながらプリーストの瞳に言い様のない怒りが宿る。
 それに気付きもせずローグは鼻歌混じりに漆黒の布地を使う。薄く汗ばんだだけの額を手のひらで拭い、前髪を後ろへ撫でつけている。黒い髪が全部上がると、第一印象よりも少し幼く見えた。

「拭くだけじゃ、やっぱすっきりしねえな……」

 不機嫌そうに言う声にも含み笑いが見え隠れしている。すっきりしない理由が、まるでプリーストにあるかのような物言い。ポポリンの毒にあてられてまだ痺れの残る手を後ろへ払う。標的となったローグの手は、早々に法衣を離れていた。
 虚しく空を切って落ちる手。その代価に得たのは、身を捻った瞬間の全身を裂くような違和と痛みだった。

「ぁ…………」

 不意にプリーストが身を竦めたのは、一向に治まらない痛みよりも、血とゼリー混じりの白濁液が体内から零れ落ちていくため。そのおぞましい感覚に漏れるのは、悔し涙より先に、密やかな甘い声。ローグの体液を吐き出しながら震える入口が収縮する度、妖しいざわめきが身を覆う。
 ローグの手が乱暴に肩を掴む。その力に抗うことなど出来ずプリーストは正面を向かされる。身に着けているのは法衣の上着と、首から下げたロザリオばかり。その法衣も皺が寄り、所々には体液が染み付いている。
 背を壁に預け、細い肩を上下させて懸命に息をしようとしている。力なく閉じて隠そうとしている白い足の間には、激痛に萎えたはずのそれが、気がつけばきつく張り詰めている。その下には、ぽっかりと口を開け、己が達せない代わりのように他人の体液を零す窄まり。快楽に堕ちた聖職者、といった様相を見てローグが片目を細める。
 淡く色づいた自身の裏筋に沿わせるように、ローグが軽く踏みつける。溝の入った硬い靴で痛みを与えられてなお、それは透明な雫を落として悦んでいる。

「マジで感じてたのか」
「ちが……っ、あ……」
「じゃあ、これは何だよ」
「あ……ぅ」

 蔑みの笑みを浮かべたローグが足に力を込める。痛みに呻いて身じろぐと余計に自身が擦られる。敏感な箇所への強すぎる刺激に呼吸もままならないのに、腰の辺りだけが甘く疼く。

「嘘をついたり自分を偽ったりすんのは、嫌いなんだったよなあ」

 足はそのままに、踏みにじるようにしてつま先を二三度動かす。プリーストが喉の奥で悲鳴をあげる。許しを請うようにゆるゆると首を振るが聞き入れられない。

「ほら、言えよ。『気持ち良かったです、ありがとうございました。また抱いてください』ってな」
「っ……ふざけるな! 誰が、そんな……ぁ、あ……」

 反抗の言葉を封じるようにつま先に力が篭る。軽くつつくように蹴りつけるだけでプリーストは恐怖に身を竦める。それに笑いながらようやくローグが足を下ろす。踏まれた箇所がじんじん痛む。痛くて堪らないはずなのに、それはいつのまにか、むず痒いような痺れに挿げ替えられている。

「言えよ」

 短く命令がくりかえされる。ローグがまた枝を取り出した。今にも折りそうな無造作さで指先が枝を弄ぶ。プリーストが少しでも機嫌を損ねれば、何の躊躇も迷いもなく簡単に枝を折るだろうことは、今までの言動から容易に知れる。

「言うまで、一本ずつ折っていってやろうか」

 熱にうかされた体の中、背筋が冷たく凍る。次もポポリンのような低レベルのモンスターが現れるとは限らない。そもそも、低レベルとはいえモンスターはモンスター。ここに保護されている人々の多くは一般人だ。一般人にとってはポポリンすらも強敵になる。仮に弱いモンスターばかりが出たとしても、それが集団となって襲ってくれば、冒険者でさえも命の危機に晒されることがある。
 何にしろ怪我人が増えることは免れないだろう。

「言い、ます……。だから、折らないで」

 屈辱に震える唇からか細い哀願の声を零す。ローグがわざとらしい驚き顔で肩を竦め、プリーストの顔を見やる。その仕草に怒りが煽られる。従うしか出来ない己の口惜しさに体が震える。
 早く、と無言で急かすようにローグが枝を弄ぶ。折りやすい場所を探すように指が枝の表面を這う。凍りついたように動けずにいたプリーストは、その仕草を見てのろのろと唇を開く。涙が零れた。

「…………よかっ……です……。ありが、とう……、……。っふ……、……。また、……」

 力なく項垂れ、切れ切れに口にする。抱いて、と復唱する声はこみ上げる嗚咽にかき消された。言葉を交わすだけでも嫌悪を覚える相手に抱いてくれと媚びる屈辱。惨めさが心身を蝕む。

「声、小せえなあ。さっきはあんなに、でっかかったのに」

 突き上げられる度に弱々しく漏れていた喘ぎ声を揶揄する言葉が、胸を刺す。この男にこれ以上の弱味を見せまいと堪えても、震えと涙が止まらない。頭の隅では、もう遅いと声がする。どこに隠せるだけのものが残っているのかと嘲笑が響く。
 誰の声ともつかない響きを遮ってローグの声が届く。

「よく言えました」

 おどけたような褒め言葉は、小さな子どもに対するようなものだった。身をかがめ耳朶を甘く噛みながら言う声は、愛情が込められていると錯覚してしまいそうなほど優しい。鼓膜を通して魂まで震わせるように響く。
 ペットを慈しむように緩やかにプリーストの髪が撫でられる。先ほどとは全く異なる触れ方。戸惑いながらもプリーストの心に少しずつ、諦めにも似た奇妙な安堵感が芽生える。言うことさえ聞けば他の人々が傷つけられることはない。苦痛も屈辱も耐え難いものではあるが、自分一人が我慢しさえすれば良い。それだって、きっともうこれで終るのだろう……。
 プリーストの体の震えが治まってきた頃、不意に髪が強く引っ張られる。そのまま毟り取られるのではと思うほどの荒々しい力。引きずられるように顔が上向く。

「良い子には、ちゃあんとご褒美をやらねえとなあ。教養なんざなくたって、これくらいは知ってんだぜ」

 こんな男にもコンプレックスはあるのかと、どうでも良いところに驚く。薄く開いたままのプリーストの唇に、ローグは自身の先端を触れさせる。嫌がって顔を背けようとするのを、髪を掴む指が阻む。歯の合間に先端が押し入る。血なまぐさい臭いと味が、口の中に広がっていく。
 体の奥底から寒気と吐き気がこみ上げる。頭の理解が追いつかずに、ただ目を瞠る。大粒の涙がまた溢れて頬を伝う。

「口、もっと開けよ」
「ゃ……」

 くぐもった声が喉の奥で詰まる。まだ若干の熱をもったままのローグがゆっくりと口内へ侵入する。さっきまで荒く擦られていた内壁が、その感触を思い出して切なげに疼く。
 亀頭を口の中へ収められて顎の付け根が痛い。普段からあまり開かない口は狭すぎて、さすがにローグにも痛いのか、舌打ちがひとつ。機嫌を損ねただろうかとプリーストの肩が強張る。びくついた瞬間に前歯が僅かにローグ自身を掻く。

「歯ぁ立ててんじゃねえよ」
「んっ……」

 引き抜かれたと思うより早く、ローグの平手が頬を張る。鈍い痛みが走った。頬が熱くなる。逃げるように体を竦めると今度は反対側の頬を打たれる。

「てめえが汚したんだろうがよ。てめえで綺麗にしろ」

 ローグの言葉のどこかがおかしいと、そこまではわかる。なのに、どこがおかしいのか、もうプリーストにはわからない。ただ、嫌々をするように力なく首を振る。また頬が打たれた。つかまれたままの髪が痛い。

「舐めろ」

 ぼんやりとした視界にローグの顔が映る。にやにや笑いに自信たっぷりの顔。こんな顔は見たくない。恐ろしくて目を閉じることは出来ない。震える瞼で瞬くと、涙の合間から「出来ないのか」と脅すようにローグが苛立たしげに見下ろしていた。
 口元に差し出されたままの赤黒いモノへ視線を落とす。プリーストは仕方なしに、恐る恐る舌を伸ばす。僅かに出した舌先でそっと触れ、またすぐに離れた。それを咎めてローグの指に力が篭る。細い髪の数本が抜ける、微かな痛みを感じた。
 唾液に濡れた舌を渋々、ローグのそれへ再度触れさせる。先端の割れ目へ舌を這わせていく。諦めきった中、それでも心には疲労めいた重い屈辱感が湧く。ぎこちなく機械的な舌の動きにまた舌打ちが響く。
 かり、と乾いた音が頭上でした。見上げると枝を弄ぶ指の先が、乾ききった枝の肌を削るようにしている。プリーストの心が怯えに縮む。急かされるまま懸命に口を開き、今度は自ら、ローグを口の中へ導く。
 苦味が口中に広がる。そこに混ざる、僅かな鉄錆と汗の味。力が入らず震える膝をついて伸び上がり、ローグ自信を根元までゆっくりと含んでいく。途中からは苦しくて、喉の奥は嘔吐感に一瞬痙攣する。
 無理に口内に押し込めると、瞳からは涙が零れ落ちる。乱れたままの息は鼻だけでするには辛すぎて、意識が飛びそうになる。口の柔らかい内側を圧迫するモノに、意図せぬまま舌の腹が刺激を与える。濡れた音が小さく響いた。喉が鳴る。

「っ……ぐ……」
「なかなか巧いじゃねえか。……どこで覚えてきた」

 お偉いさんを喜ばせてやったのか、と笑いと共に囁かれる。反論しようにも声が出せない。息苦しさに耐えかねて顔を引こうとする度に、髪を掴んだ手に押し付けられ、喉の奥までぐっと突き入れられる。
 口ではプリーストを辱めるように言うものの、咥えるだけで精一杯の拙い舌技には物足りなかったのだろう。ローグが投げやりな溜息をつく。ぎち、と音がしそうなほどに髪を強く掴んでプリーストの頭を固定する。手はそのままに、狭い口内へ荒々しく自身を出し入れし始める。
 次第に硬度を増していくローグのそれが出入りするにつれ、口の端から銀糸が伝う。顎先まで落ちたそれは涙と交じり合い、胸元へ落ちた。冷たい雫が胸を伝いロザリオを濡らす。己の身のみならず信仰までが穢されていくかのような感覚。じゅぷ、と音を立ててローグと舌が擦れ合う。

「んく、……っう……」

 口の中に苦味が増す。外れそうなほど開かされた口。顎が痛むのを通り越して、だるくなってきた。もう痛かったことも思い出せない。燃料が尽きかけているのか、じじ、とまたカンテラが鳴る。
 歯を食いしばる代わりにきつく閉じていた瞼を、そろそろと開く。見上げる先には、僅かに息を乱して自分勝手な愉悦を味わうローグの顔がある。息苦しさに他のものは見えない。暗闇の中にローグの姿だけが浮かび上がって見える。己を支配する者と二人きり、地獄の底にでもいるような気がしてくる。
 ローグの腰の動きが数秒ほど緩慢になり、それから一息に速くなる。じゅ、じゅ、と口の中で、先走りと唾液の混じったものが音を立て、気分を煽る。
 永遠とも思えるほどの時間は、けれどほんの数瞬でしかない。ローグが舌打ちにも似た小さな声を漏らした。口の中ほどまで引き抜いた自身の先端から白濁液が迸る。プリーストは硬直したまま、それを口で受け止めることを強要される。

「っぅ……、んん――……」

 最後の一滴までを出し切るとローグがようやく腰を引き、プリーストの口を解放する。微かに震える唇を懸命に閉じようとしながらプリーストが首を振る。ようやく萎えたローグの先端と繋がっていた白い糸が途切れ、口の端から伝う。そのまま中身を吐き出してしまおうとした瞬間、ローグの片手がプリーストの顎先を捉え、上向かせる。

「口の中のもん、全部飲め」
「……!」

 懸命に首を振るも、ローグがひと睨みするだけで動きは鈍くなる。ローグの手が口を閉ざすように力を込める。あれほど閉じたがっていた口なのに、無理に閉ざされようとすると痛む。
 ローグの顔がつとプリーストの耳元に寄る。耳朶を鋭く噛んでから、囁く。

「俺が折角、ご褒美をやったんだ。素直に受け取れよ。……それとも、ご褒美より、お仕置きの方が好きだったか?」

 変態、と低く落とされた声が耳を犯す。それとは知れぬまま、体中にぞくりと快感が這った。未知のものに怯え、それを振り払うようにプリーストは首を振る。
 飲めと再びくりかえされる。それも拒否するとローグの指は無造作にプリーストの鼻を摘む。先ほどまで枝を弄っていた手はどこか土臭い。口も鼻も塞がれ、元より呼気が乱れに乱れていたプリーストは耐えられるはずもなく、喉を鳴らして口の中の液体を飲み込んでいく。

「ぅ……っく、……。――……は、ぁ……」

 飲みにくさ故に時間がかかり、逆に味わってしまう。それでもようやく全て飲み干すと、ローグが手を離してくれる。身を折って咳き込みながらプリーストが背を震わせる。吐き気が喉元までせりあがってくる。
 唾と共にローグの体液の残滓を飲み込みながら、それを懸命に胃へ送り返そうとする。今ここで戻したりすれば、ローグは機嫌を損ねるだろう。プリーストにより過酷なことを要求するか、ここで予告どおりにテロを起こすか……どう転んでも良い方向へは行かない。
 嗚咽とも咳ともつかないものに肩を揺らしながらプリーストが顔を上げる。ローグの愉快そうな顔が見えた。萎えたローグ自身が近付いて来る。怯えたようにプリーストが唇を閉ざす。それには頓着せず、先端がプリーストの頬へ擦りつけられる。涙と、精液の飛沫とを混ぜ合わせるように何度もゆっくりと、それは動かされる。

「まあ、こんなもんかねえ……」

 己の先端が乾いてくると独り言を呟きながらローグが頭を掻く。そのまま自身を仕舞い、ズボンの前を正す。新しく頬についた厭らしい穢れを拭う気力もないまま、プリーストは項垂れる。喜びも怒りもしばし忘れてただ、ようやく終ったのだとその安堵だけに身を委ねる。
 早く立ち去ってくれと願うプリーストの髪を再び掴み、ローグが顔を上げさせる。そうしながら、ひょいと身軽にしゃがむ。プリーストの股間を覗き込み下卑た笑い声を上げる。

「舐めてる間にイキそうになってたのか?」

 触ってもいないのに、と嘲笑う言葉の通り、プリーストのそれは先ほど以上に硬く張り詰め、形を成していた。ローグに間近にそれを見つめられ、溜まっていた透明な液が零れ、根元まで幾筋か伝っていく。触れられないままここまで熱をもったのだから、触れられたらそれだけでも達してしまいそうだった。

「その上、見られるだけで感じると。ここまで淫乱な奴もなかなかいねえな」
「……ふぁ……、っ……。い、や……」

 嗚咽の合間に短い呼気が詰まり、苦しそうに喉が鳴る。ローグの言葉に、止めてくれと首を振る。ローグは大人しく口を噤み立ち上がる。髪からも手を離した。二歩ほど下がり、プリーストの全身を眺め回す。
 汗と涙と精液で汚れた白い顔。頬だけが薄っすらと赤く色づいているのは、殴った名残だ。寛げた胸元が艶かしい。銀のロザリオが薄っすら赤く焔を照り返している。腹部辺りからはまた開いて左右に分かれる上着から、白い腹が覗く。そこから続いて滑らかな臀部と、硬く張り詰めた自身。ほっそりした、歩きなれていなさそうな足は、膝まで下ろされた法衣の下によって緩やかに拘束されている。
 その足を開くはずはなく、ゆっくりと閉じる。ローグの視線から少しでも身を隠そうとして、閉じたまま膝を立てる。後ろへ寄りかかるような姿勢は、無理矢理裂かれた体内に負担がかかる。小さく呻きながらも膝を立て、胸元をかき合わせて身を縮める。法衣の重厚な布地に擦られた自身がびくんと跳ねる。

「自分でしてみな」
「……え?」
「てめえを気持ち良くしてやる義理なんざねえからな。てめえでしろってんだよ。やったことなくたって、やり方くらいは知ってんだろうが」



















2005/11/24
  ローグさんスッキリ(・∀・)