捕獲(2)
カンテラの中の火が、じじ……と微かな音を立てる。その他には、ローグの足下で体当たりをくりかえすポポリンの微かな弾力のある音があるばかりだ。怪我人たちの苦しそうな寝息も廊下までは届かない。
プリーストの白く細い髪を掴むローグの手に力が篭り、顔を上げさせる。翳りに隠されていたプリーストの顔がカンテラの灯りに照らし出される。
「立てよ。根性ねえなあ」
「ぅ……」
ローグが思い切り腕を引き、プリーストの体を壁に叩きつけるようにして立ち上がらせた。石の壁に背が打たれ、プリーストが息を詰まらせる。ローグの手はいつのまにか髪から離れ、プリーストの胸元へ移っていた。胸倉を掴むようにして更に壁へ押し付けようと力を込めてくる。さほど強くもない力なのに外せない。
僅かに緩めた襟元からローグの熱が伝わってくる。それが気持ち悪くて、プリーストが眉を顰める。それに気づいた風すらなくローグはもう片方の手をプリーストの腰へ触れさせる。
プリーストがその手に気づいたときには既に、きつく締めていたベルトを抜き取られ、ボタンを外されていた。手から逃れようと身じろぐのをローグの手が押さえつける。圧迫される胸が苦しい。ジッパーの降りる音が聞こえ、次の瞬間にはズボンと下衣とが膝の辺りまで下げられている。足下から這い上がってくる冷気が腰に纏わりつくのを感じて、そこでようやくプリーストは下半身を露出させられていることを知る。
「何を、……するのですか」
「見てわかんねえのか」
狼狽を押し殺した声を聞いてローグが鼻で笑う。答える義理はないと言わんばかりに唇を歪めた。腰に触れていた手を引き、ローグは懐から短剣を取り出す。見たところ装飾もなければさして高名そうでもない、ただの短剣だ。
「後ろを向いて壁に手をつけ」
言葉と共にプリーストの胸元が解放される。反射的に身を捩るプリーストの動きを封じるように、ローグは続けて古木の枝を一本取り出す。
言うことを聞かなければ折ると告げるように、ローグの指先が揺れる。プリーストの薄い青の瞳が怒りと恐怖とに染まった。小さく俯き形の良い唇を噛みながらプリーストはのろのろと後ろを向く。相手の意図が今ひとつ理解出来ず、棒立ちのまま申し訳程度に壁に両手を触れさせる。
「もっとケツを高くあげろ」
「な、……! ふざけるのも大概に……」
「てめえの立場ぐらわかっとけよ」
呆れた口調でローグが吐き捨てる。手にした短剣で枝の中心に軽く切れ目を入れた。効力が発動する直前で止められた枝。不意にプリーストの唇の合間にそれが押し込まれる。
「てめえが少しでも逆らえば、この辺り一帯がテロで沈むかもしれねえんだぜ。……どうすれば良いかくらい、お利口なプリースト様ならわかんだろう?」
硬く奥歯を噛んで口を閉ざすプリースト。その努力を嗤ってローグが肩を揺らす。枝を押す手に力が篭った。柔らかい唇が仕方なしに枝を落とさないようにと咥える。
それに満足したように、ナイフを仕舞ったローグの手がプリーストの下半身へ伸びる。清楚に縮こまるそれを無遠慮に掴み、痛みを与えるのが目的かのように強く、二三度扱く。プリーストの顔が苦痛に歪む。
「く、ぅ……」
強い痛みの後には、指先で軽く触れる程度の愛撫が与えられる。ローグの無骨な言動とは裏腹に、羽毛が舞うかのような繊細さのある動きだった。
恐怖と痛みの続く中で不意に与えられたのは慈しみにも似た感覚。プリーストは癖で唇を噛もうとする。それを、咥えさせられている枝が阻む。ぎち、と犬歯が枝に食い込む。嫌な歯ごたえにプリーストは懸命に歯を立てるのを止めようとする。
ローグの指が手が動く度に腰を中心にわだかまっていく痺れを何と呼ぶのか、プリーストはまだ知らない。知らないが、ただ受け入れがたいものであることだけは感じている。受け入れてしまえば容易には戻れない。取り返しのつかないことになる。それは恐ろしい。
ゆるりと熱をもち自己を主張しはじめたプリーストのそれは、透明の露を滲ませ、ローグの手の内を汚す。
「聖職者には過敏な奴が多いな……やっぱ、溜まってるからか?」
ローグの囁きにかっと頬が熱くなる。ここへきてようやく性的な辱めを受けていることに理解が追いつく。この銀髪のプリーストにとって、こうした被害に遭うのは女性だけ、という認識があった。
自身へ触れる硬い指も、それに呼応して弾む息も、それを聞いて忍び笑うローグも、何もかもが汚らわしい。けれど一番汚らわしいのは、己の体が熱をもっていることだった。ローグの手が僅かに動き、強弱をつける度に全身の神経が研ぎ澄まされていくのがわかる。手の動きが一瞬でも止まれば、急にもの寂しさが生まれ、心の中で「もっと」と言葉が跳ねる。
にちゃにちゃと粘液が音を立てる。ローグの手をますます汚していく。――これ以上、彼が穢れることなど、あるのだろうか。彼を穢せない分だけ、自身に塗り込められていく己から出た透明の液が、己を穢す。何か知らない黒いものが入り込んでくる。
「普通、いくら高いったって、ここまで効いたりゃしねえよ」
「ん、……ふぁ……っぁ……」
どれだけ枝を噛むまいと思っても噛んでしまう。飲み込むに飲み込めない唾液が、乾いた枝の表面に染み込み、黒くてらつく。枝からする土の味ともつかぬ黴くさい臭いが舌を蹂躙する。
長くものを咥えている所為で、次第に喉の奥から吐き気がこみ上げてくる。それだというのに、プリーストの唇からは、少しくぐもってはいるけれど、悦楽に満ちた声が漏れ出ている。彼が今まで耳にしたことのない、己の声とも思えない声だった。
徐々に、ではなく急激にプリーストは追い立てられていく。ローグの指が少し離れるだけで気が狂いそうになる。再びそこに触れてもらうためなら、何でも出来るのではないか……そう、一瞬でも思わせられる。
「っ――……ぁ、ああ……」
視界が涙で曇る。膝頭が震えて力が抜ける。冷たい壁が眼前に迫る。指先が縋るように壁に爪をたてる。手の甲に額を押し付けるようにして、俯く。
足下に置かれたカンテラの火が眩しく眼底でちらつく。一瞬の目眩。次の瞬間に目に飛び込んでくるのは、他人の手に嬲られて見たこともないくらいに張り詰め、色をもった己自身。
それを認識した瞬間プリーストが短く細い悲鳴をあげる。手の甲に額をすりつけるように首を振る。その呻きにも似た小さな声にローグが手を止めた。プリーストは薄い胸を上下させて逃れようと身を捩る。が、一度身じろぐだけで止めてしまった。
「イイ薬だろ? 体はいつもより敏感で、欲しくて堪らなくなんのに、精神の方はそれほど侵されねえ。……教会のお偉いさんにも何人か、たまーに買いに来てるぜ。それで何人の愛人を喜ばせているやら……」
聖職者を侮辱する言葉を吐きながらローグは嗤う。その言葉に激しい怒りを感じるものの、喉から微かな声をあげることしか出来ない。そんな、壁に縋って辛うじて立つだけのプリーストから手を離し、身をかがめる。手を伸ばし、無造作にポポリンを鷲掴んだ。
カンテラの火がその様子を拡大して影絵にする。魂を己が手に掴む悪魔のようだと、プリーストは頭の隅で思う。
身に着けることを許されていた法衣の裾をまくられる。白く、人目に晒したことなどないだろう滑らかな双丘が露になる。きめの細かな肌を冷たい空気の手に撫でられ、プリーストは小さく身を竦める。
不意にローグが手に力をこめる。その合間で逃れようともがいていたポポリンが、力に抗いきれず、逃れきれず、ひしゃげて潰れた。びちゃりと嫌な音が小さく確かに響いた。
冷たいゼリー状の飛沫がプリーストの白い肌の上に散る。臀部の合間を伝い、太腿まで汚していく。
「っぁ――……は、……」
急速に命を失ったモノの欠片が身に触れたというのに、形良い唇から漏れるのは掠れた甘い声だった。それを打ち消すように首を振る。唇に咥えたままの枝の先が、手袋と袖の合間に覗く柔らかい肌を傷つける。
所々に薄く血を滲ませた小さな跡がいくつか。そんなささめきに似た痛みも、胸の内に生まれる罪悪感も、全身の感覚を研ぎ澄ませていくようだった。
ローグはまた鼻をひとつ鳴らしたきり何も言わない。代わりに太い指を、淡く色づいた窄まりに触れさせる。骨ばった指をぐいと押し込まれ、プリーストはまた枝を噛む。細い枝の落ちた名残なのか、枝の僅かな尖りが唇の薄い皮膚を裂く。
口の中に血の味が広がっていく。
血の味が、唇からくるものなのか、無理矢理に広げられた入り口からくるものなのか判然としない。何ひとつ受け入れたことのない入り口は無骨な指を拒んできつく締まる。にも関わらず、潰れたゼリー状のものが潤滑油となって、酷くあっさりと指の根元までを咥え込む。
「ふ、く……っ、あ……、あ」
痛みを与えるためなのか、単に気にかけていないだけなのか、ローグの指はそこに馴染むのを待つこともせずに引き抜かれていく。入り口は震えるように収縮し、更に指を締め付ける。それを振り払うように指は完全に引き抜かれる。
プリースト自身の零した涙と、緑色をしたジェルを混ぜ合わすようにローグが手を揉む。ぐちゃぐちゃといやらしい音が耳に届く。薬に侵されないままの心が耐え切れず、プリーストの目の端から涙が一筋伝い落ちる。
「もう泣いてんのか?」
嘲る問いにプリーストはただ首を振る。ローグは笑いながら、二本の指を揃えて窄まりに突き立てる。細い指を一本受け入れるだけでも簡単に傷つきそうな狭いそこに、いくつもの傷がつき血を滲ませる。
「泣くのは後にとっておけよ」
生暖かい息がプリーストの耳にかかる。耳孔から入り込み全身を侵し、穢していく。柔らかい耳朶をローグが噛む。穴を穿つように鋭い痛みが走る。その痛みに乗せてローグが呟く。これからもっと酷くなるんだから。
これ以上どうすれば更に酷くなるのかプリーストにはわからない。この男はわからないことだらけで恐ろしい。硬直したプリーストを見てローグがまた嗤う。おかしくて堪らないといった様子だ。恐ろしい。意味のないのに悪意ある笑みは恐ろしい。この男は、恐ろしい。
体中を満たす熱は息を乱す。弾む息が思考を乱す。ただ、半端に弄ばれたまま放置されている自身が苦しい。それがどうすれば解消できるのか、知識としては知っている。しかし、それが己の身に起こると考えたことはなかった。
背後でまたジッパーの降りる音が聞こえた。ローグが中から己を取り出し、手にべったりついた液を擦り付けながら軽く扱く。快楽に忠実なそれはすぐに硬く反り返る。手に余った緑のゼリーは、プリーストの尻の合間に垂らし、塗りこめる。
「ん……、んん……」
その感触を嫌がり、プリーストが首を振る。懸命に後ろを振り返り何かを訴えようとする様子にローグは唇を笑みの形に引き、プリーストの口の合間から枝を取ってやる。細く白い糸が枝と唇を繋ぎ、やがて離れた。蜘蛛の糸が途絶えるようにぷつりと消えた。
「何か言いたいのか?」
「っ……は、……」
俯きながら咳き込むプリーストの耳朶を噛みながらローグが囁く。震える体で振り向きながらプリーストは、そのにやけ顔を睨み返す。
「神聖な場所で、……殺め、…………これ以上、何を……」
時折肩を震わせて言葉を止めては、また吐息と共にそっと言葉を吐く。掠れた声が艶やかだった。ローグが低く笑い、耳の孔へ舌を這わせる。気紛れに縁をなぞった後で唇は離れていく。
プリーストがほっと息をつく。それを見計らったように、ローグの昂ぶりが、薄っすら血の滲んだ入口に宛がわれる。狭い入口をこじ開け、壊すように、硬い熱が無理矢理プリーストの中へ押し入ってくる。
「ひっ……!」
引きつった悲鳴をあげてプリーストが硬直する。それには全く頓着せず、侵入を拒む入口をこじ開けようとローグが腰に力を入れる。
「い、……――嫌だ! 止めろ!」
常の丁寧な口調が崩れ、急いた声が悲鳴の続きのようにあがる。それが心地良いBGMであるというようにローグの目元が和んだ。そして、それが当然の権利といわんばかりに強引に、最も太い場所を無理に入口へくぐらせ、そこで留める。
ちゅぐ、と粘液が音をたてる。プリーストの膝が折れそうになるのをローグの手が阻む。先端の丁度太くなった箇所が入口を押し広げたままでいる。激しい苦痛にプリーストが声もなく涙を零す。息が出来ない。
生きたまま串刺しにされるかのような激痛から逃れようとしてか、プリーストの指先が弱々しく壁を掻く。冷たい灰色がかった壁は慈悲もなく黙ったままそれを受け止めているばかりだ。
狭い入口が限界まで開かれている。これ以上の穢れの侵入を止めたがって入口はきつくきつく収縮していく。
「ああ、ぁ…………――――っ……ふ……、……」
か細い悲鳴が漏れ、やがて声も出ないというように途絶えていく。一刻も早い終わりを望むも、ローグは動こうとしない。息も出来ずにプリーストの顎先が上向く。目から零れた涙が頬を伝い、耳の側を流れていく。冷たさは己の中の冷静さを際立てるようで苦しい。溺れた者がするように大きく口を開けて喘ぐ。
呼吸しようとする度に臀部から痛みが走る。息を吸うことすらままならない。息を吸って、吐く。地に生きるものとして当たり前のことでさえ、罪であるかのようだった。痛みは、それに対する罰だ。
……何故、罪に問われるのだろう。
テロに対して何も出来なかったからなのか。助けることの出来なかった命の咎を負うからなのか。多くの選択の後に残った多くの切り捨てられたものたちの、怨嗟の積もりなのか。潔癖であろうとした己の在り方が間違っていたのか。それとも他の……魂の抱く罪なのだろうか。
「おゆ……お許しを……。っく、……ぁ……。あ――……貴方、の愛し児へ……」
痛みに声なく喘ぎながら朦朧としたまま口をついて出るのは、祈りの言葉だった。そんなプリーストを見てローグが舌打ちをする。苛立ち紛れに、激痛に萎えたプリースト自身を握り締める。
「懇願するなら、俺にしろよ。当てにもならないカミサマになんて、祈ってんじゃねえ」
片手でプリーストのモノを弄りながら軽く腰を揺らし、吐き捨てるように言う。一番太い部分をプリーストに感じさせるように、入口から浅く引き抜いては元通りに押し込む。それ以上先には決して進まない。
「苦しいんだろ? 俺に可愛くお願いのひとつもすれば、楽にしてやるぜ。何せ、ロクでもねえカミサマと違って、俺は優しいからよぉ」
息を乱す様子もなくローグが囁く。大聖堂でありながら神罰を恐れた風もない、揺るぎない自信。その在り様を拒否するようにプリーストは首を振る。それだけは聞き入れられない。このまま陵辱の果てに殺されるとしても、神を捨ててこの男に跪くことなど出来ない。
プリーストの顔が苦痛に歪んでいるだろうことは、背の強張りを見るだけでもわかる。体は今も侵入しようとするローグを拒み、逃れようとしている。
それでいながら決して、ローグに哀願しようとはしない。半ば意識を失いながらも首を振る。その度に銀の細い髪だけが乱れ散り、汗に濡れる額に張り付く。
目を閉じ奥歯を噛み締めて声を押し殺す顔が、薄暗い中にほんのり浮かび上がっている。乱れた中でも清廉さを失わない、やや冷たささえ感じさせる整った顔。その顔をもっと恥辱に染め、苦痛に歪めたい。そんな欲求がローグの中に生まれる。
ねだりの言葉を強要しながらローグは緩く腰を揺らす。冷たく沈んだような廊下で、二人の周りにだけ、すえた熱気が篭っていた。
不意にプリーストの背がびくりと強張り、小さく反る。同時に入口が二三度、一際強く収縮する。
「ふ……ぁ、あ……」
微かに高く掠れる声が苦しげな吐息に混じる。ローグは耳ざとく、その声に潜む色を聞き分ける。口の端が笑みにつりあがる。少し乾きかけた緑の液体がついたままの手で、銀の髪を掴む。
「感じてんのか?」
蔑む声がプリーストの耳を犯す。その声のいやらしさに全身が熱くなり、霞がかかった頭が一瞬、明らかになる。
「離、し……。……離れろ、……!」
「おっと」
力を振り絞って、背後の男へ肘を打ち出す。当たった確かな感触はあるのに、ローグが身じろぐ様子すらない。むしろ面白がるように笑みを漏らすのが、当たったままの肘から伝わってくる。この男はいつも笑っている。
「図星か」
髪を掴んだ手を引いてプリーストの顔を上げさせる。細い髪の向こうに悔しそうな顔が覗く。
真っ白に透き通る肌は、下を流れる激情を透かして桃色に映す。怒りを宿す瞳は同時に悦楽に溶かされ潤んでいる。
薬の効果を抜きにしてもだいぶ感度が良いようだった。
ローグが笑みを一層深める。
何の前触れもなく腰をぐいと突き出した。ぎちゅ、と狭すぎる入口が卑猥な水音をたてる。声に鳴らない悲鳴をあげ、プリーストの体が強張る。逃すまいと腰を掴み、引き寄せるようにして一気に根元までを咥え込ませる。
先ほどの焦らしが嘘のように一息に挿し込まれたそれを、傷のついたプリーストの内壁がきつく、柔らかく、何度も噛み締めるように蠢きながら締め付ける。その強すぎる快楽と痛みとに意識が遠のいていき、不意にプリーストの痩身から力が抜ける。膝をつきそうになる体を決して許さぬとばかりローグが深く体内に入り込む。
ぐったりと目を閉じたプリーストの意識が戻るのも待たず、遠慮の欠片もない抽送を始める。ゼリーが、プリーストの内壁とローグ自身の間で擦れ合う間に潰れ、次第に液状になっていく。
ローグが腰を打ち付ける度に、彼の固い服と冷たいジッパーが柔らかい尻にぶつかる。所々は赤い跡になり、血を滲ませている。貫かれ、蹂躙される体は重く、汗に濡れている。周囲に濃い血の臭いと体液の臭いとが漂い始める。
ローグの赤黒く張り詰めたモノが引き抜かれる。びちゃりと音を立てて、緑の中に薄っすら赤の混じった液体が床に落ちた。
「っ……ひ……」
「お目覚めかい、プリースト様」
「な……――ぁ……っ痛……」
軽く腰を揺すってローグが皮肉げに声をかける。ここがどこかさえ忘れたように呆けていたプリーストは、下肢から伝わる鋭い痛みに急激に目覚めていく。
今までにない痛み。拷問のようなそれに、堪えようとしても涙が零れる。痛くて全身を裂かれそうなのに、体の奥底には何か知れぬものが疼き、息づいている。熱が鼓動に合わせてずくんずくんと響いている。
以前にいちどだけ酒を飲んだことがある。あのときの、ふわふわ宙を浮くかと思えば、地表に縫い付けられるかのような重みを感じる、あの気紛れな感覚に似ている。どこか己の知らない場所へ連れて行かれそうな、もう戻って来られないような、そんな不安さえも快感である。それがまた、恐ろしい。
「っく……あ、あぁ――……!」
下から大きく突き上げられ、プリーストの体が跳ねる。逃れようと身じろごうにも、腸壁から直接吸収したポポリンの毒に手足は痺れたように動かない。精神だけが目覚めていて体は眠ったままであるかのような錯覚。まるで人形の体に己の魂だけが移されたかのようだ。
「もう……抵抗は終いか?」
小馬鹿にした口調でローグが囁く。低い声が耳をくすぐる。先ほど舐められた箇所が小さく疼く。それさえも鼓動を速くする。口惜しそうにプリーストがまた唇を噛む。声を堪えようとするのに、唇は容易に解け、甘さを含んだ声が漏れ出る。
「薬が効いてんのか、ただの痛いのが好きな変態か……それとも、両方かねえ」
夢とも現ともつかない場所でローグの声が響く。強引に解されてなおきつい入口。熱く柔らかい内壁。その全てを痛めつけ、傷つけるよう乱暴に腰が動く。
上手く動かせない体にも関わらず、プリーストの入口は細かく収縮をくりかえし、ローグ自身に絡みつくように刺激する。気が遠くなるほど僅かずつ和らいでいく痛みと、その合間に見え隠れする、急速に強さを増していく快楽とに、プリーストは唇をわななかせながら懸命に耐える。
「……何にしろ、こんなに淫乱で、よく聖職者面してられるよなあ」
さすがに少し息を乱しながらローグが嘲笑する。淫猥な水音を響かせながら、重なり合う二人の影が壁に大きく映し出され、揺らめく。
足から力が抜けると、下から突き上げてくるモノを深く咥え込まされ、奥深くを容赦なく擦られる。それを厭って懸命に足に力を込め、爪先立つとぎりぎりまで引き抜かれる。安堵の息をつきかけた頃に腰を引き寄せられ、勢いをつけてまた貫かれる。
喘ぐ合間に辛うじて息を吸うプリーストにローグは愉悦の笑みを浮かべる。形を覚えこませるようにゆっくりと腰を動かしたかと思えば、快楽を求めて己の欲のままに性急に腸壁を擦る。
ローグが動く度に重く溜まっていく痛みは、同時に堪らない疼きをプリーストに与える。冷たい空気に乾いた唇から、呑み込む間のない唾液がつと伝い落ちる。
「ん、ふ……ぁ……」
口惜しさに涙を落とす。それなのに形良い唇から漏れる声は誘うような甘いものに変っていた。頭の中がぐらぐら揺れる。もう痛いのか悦いのか、これが己の望むところなのか、厭っているのか、それさえも曖昧になり、わからなくなっていく。
急にローグの腰の動きが速くなる。ただ己の欲を満たし、快楽を得るためだけの動きにも、プリーストは甘い痺れを強める。呼吸の乱れが酷くなるにつれて思考は散々に乱れる。引き裂かれる痛みは体内に重くよどむ。
もう許してくれと心の中で何度も叫ぶ。口から漏れるのはか細い悲鳴ばかりで、それが酷くプリーストの心を傷つける。屈辱に心がひび割れそうになる。だというのに、体はローグの先走りで更に潤んでいく。
粘っこい音が絶え間なく続くようになってどれ程経ったか、小さな獣じみた唸り声と共に、プリーストの体内に精が放たれた。
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