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 アルカージィがマスターを勤めるギルド『Motherland』は、メンバーが未だ十人に満たない小さなギルドである。資産がそれほどあるわけでもない。
 そうでありながらギルドハウスを早期に手に入れることが出来たのは、単に大きめのギルドハウスを他のギルドと共同購入したからだ。
 そのギルドハウスのキッチンでヴァレリオは今日も朝食の後片付けをしていた。生活の不規則な冒険者たちではあるが、ギルドハウス購入後は比較的皆、食事をきちんととる習慣が出来たようだ。
 桶に張った水で食器をゆすいでいると、一人の女プリーストが顔を覗かせた。肩から前に垂らしてふたつに結った明るい金髪と、その合間に覗く三日月のヘアピンが愛らしい。名をイルマという。

「ヴァレリオさま、ヴァレリオさま」
「……あれ、イルマ……。狩りへ行ったんじゃなかったのか?」
「忘れ物をしていたのに気づいて、慌てて戻って参りましたの」

 腕まくりした手を桶につけたまま肩越しに振り返るヴァレリオ。それを見つめながらイルマは頬に手を当ておっとり微笑む。

「忘れ物?」
「ええ、私、ヴァレリオさまにお伝えしないといけないことがあったのです」

 何だろうと不思議そうにヴァレリオはイルマへ向き直る。ハンドタオルで手をふきふき首を傾げて先を促してみる。
 イルマはもったいぶるように何度か瞬いてから口を開く。

「今日が何の日かご存知?」
「え、今日かい? えっと、今日は……もう四月だね」
「ええ。その四月の一日、というところが重要なのです」

 謎かけめいたイルマの言葉にヴァレリオはきょとんとして立ち尽くす。記憶のページをどれだけめくってみても、四月一日にあてはまる行事など思いつかない。

「誰かの誕生日、でもないな……。何だろう」
「良いですか? 四月の一日はエイプリルフールと申しまして、自分の家族や大切な人に嘘をつかなければならない日なのです。もしも大切な方から嘘をついて頂けなかったら……」
「つ、つかなかったら?」

 イルマの深刻そうな顔につられて、ヴァレリオもつい緊張しながら問い返してしまう。演出的な間をたっぷりととってからイルマは更に言い募る。

「その方の一年は、あまり良いものにはならなくなるのだとか」
「え……」

 今までエイプリルフールの存在を知らなかったヴァレリオは真剣に衝撃を受けたようだ。真顔で記憶を手繰り、去年のアルカージィのことを思い出していた。
 そういえば料理をするんだといってキッチンに立っては指をこれでもかと怪我をして帰ってきた。調味料を、わざとではないかと思えるくらいに入れ間違えたりもした。夏は暑いからといって狩りをしなかったこともあった。
 勿論それらはアルカージィ本人の資質というか、性格によるものであるのだが、人の言葉を素直に信じる性質のヴァレリオは「自分がエイプリルフールの慣習を行わなかった所為か」との考えに達していた。
 その様子をイルマが、肩を小刻みに震わせながら見つめている。やがて咳払いをして再び、ヴァレリオを安心させるようにやわらかな声で語り出す。

「でも大丈夫ですわ。安心なさって。去年までの分も今年、マスターに嘘をついてしまえば良いのですもの。それで今年は去年よりも幸せになれましてよ」
「そ、そういうものなのかい……?」
「ええ。勿論」
「イルマは……もう誰かに嘘をついたのか?」
「いいえ、まだこれからですわ。そうですわね、せっかくですから、お兄さまを騙して来ようかしら」

 騙しやすい人ですものと言うイルマの口元には、聖母めいたやさしい笑みが浮かんでいる。ヴァレリオは何とはなしに「女性は凄いな」と感嘆の溜息をついた。
 不意に、ぱむ、とイルマが手を打ち合わせる。

「あ、そうでした。私、お兄さまと狩りに行くのでした」

 話しこんでいるうちに忘れてしまった。そう言いながらイルマはきびすを返す。キッチンの扉をくぐる前に振り向き、ヴァレリオへ微笑む。「頑張ってくださいませ」と励ましの言葉までかけてくれた。何やら今日の彼女はサービス精神旺盛である。

「そうそう、ヴァレリオさま。嘘をつくことをその方に予告したり、その日の内に嘘だったと教えたりしてはいけないそうですから、お気をつけて」

 軽やかに走り去っていくイルマの後姿をぼんやりと見つめながらヴァレリオは立ち尽くす。途中の洗い物のことも忘れてヴァレリオは考え込んでしまう。

 エイプリルフール。初めて聞く行事だ。世話になった教会でも教えてはもらわなかった。プロンテラの辺りで行われている習慣ではないのだろう、たぶん。
 でもイルマと彼女の兄はたしかアルデバランの出身だったから、もしかしたらそちらの方では、そういう習慣が今でも残っていたりするのかもしれない。習慣というものは案外、外にいる者には伝わらないものだ。だから、そういうこともあるのだろう。
 新しい習慣に触れるのは楽しいことだし、それを実行してみるのも良いかもしれない。命ほど大切な相方を幸せに出来るのなら、なおさらである。

 問題があるとするならば、ただひとつ。
 ヴァレリオは今まで嘘をついたことがない。
 嘘をつかれた覚えも、たしか、ない。
 つまり、嘘のつきかたというものが定かではないのだ。
 要するに本当とは反対のことを言えば良いのだろうか。しかしヴァレリオのことはよく知っているアルカージィだから、本当と正反対のことを言っても、すぐにわかってしまうだろう。
 どうしたものか……。

 * * *

 洗い物や洗濯物を片付けてヴァレリオはリビングのソファで一休みする。その日の気分や体調に合わせて紅茶を淹れるのは、もはや日課となっている。主婦みたいだと友人は笑っていた。意外と心が休まって良いのにとはヴァレリオの弁。
 壁にかかっている時計へ目をやる。もうすぐ十二時だ。今日はギルドメンバーは全員(アルカージィを除いて)狩りへ出かけているし、もうひとつのギルドの方は、普段はそちらのサブマスターが食事を切り盛りしているため気にしなくても良い。
 もう少ししたらアルカージィが起きてくる。規則正しい生活をしろと口をすっぱくして言ってきたが、共に暮らすようになって数年、そろそろ悟りが開けてきた様子のヴァレリオだった。

(アルは……、どうせ起きたばかりだと大して食べないから、軽食で良いかな……)

 アルベルタ産の紅茶で作ったミルクティを飲みながら献立を考える。
 こうして愛する者のために何か出来るのは良いなと思う。が、今は気が散りがちである。何といっても、生まれて初めての嘘をつかなければならないのだから。

(まだ寒いから、スープでエイプリルフールとか……だったら嘘がサンドイッチかな……)

 難しい、と独り言を呟いて溜息をつくヴァレリオ。若干思考も混乱しているようだ。
 紅茶を飲み干したところでソファを立つ。お気に入りのティカップを洗うついでに、簡単なサンドイッチを作れないか食料庫を覗きにいこう。
 キッチンへと足を向けたところで階段を下りてくる足音が聞こえた。いかにも今まで寝ていて今も半分夢の中です的な覚束ない様子の足音だ。

「おはよう、アル」
「うあー……。うん……」
「今からご飯の用意するから、先に顔を洗っておいで」
「そだね……」
「ほら、しゃっきりしないとまた何もないところで転ぶぞ」
「あー……、うん……」
「はい、しっかり歩いて顔を洗う」

 子どもに言い聞かせるように言いながらアルカージィの背中を押して洗面所まで連れて行ってやる。これもまた『Motherland』では既に見慣れた光景だ。
 しっかりとプリーストの衣装を着込んだヴァレリオとは対照的に、アルカージィはよれよれのパジャマを着ている。青と白のストライプパジャマが異様に似合うアルカージィだった。
 洗面台にお湯を張ってやる。ほら、と再度促してようやくアルカージィがのろのろと顔を洗い始める。時々そのまま寝てしまうこともあるので、しばらく見守って「もう大丈夫」と思えるあたりでヴァレリオはキッチンへ引き返す。

「顔を洗い終わったら着替えてくるんだぞ」
「はーい」

 水に触れてだいぶ意識がしっかりしてきたのか、アルカージィからちゃんとした返事があった。ヴァレリオはやれやれと溜息をつく。
 キッチンへ戻ると既にもうひとつのギルドは食事を終えたようで、綺麗に片付けられていた。パンをまとめて置いてあるところを覗くと、サンドイッチ用のパンはなくなっていた。代わりにメモが入っている。手に取って見ると、向こうのサブマスターからだった。
 妙に達者な似顔絵つきで『ごめんね、サンドイッチ用の全部使っちゃった。後で買っておきます。』と書かれていたメモ用紙に、ヴァレリオはつい笑みを漏らす。台所に用意してあるペンで下の方に『了解』と書き加えて元に戻す。こうしたやりとりがヴァレリオは好きだった。

「あ、食パンはあるのか」

 紙袋に入った食パンを発見して、ヴァレリオは嬉しさに笑みを浮かべる。確かチーズとハムがあったから、それでトーストでも作ろう。一人納得して作業にとりかかる。
 布巾をかけてとっておいた昨夜の残りの野菜スープを、もう一度火にかける。スープにすればアルカージィも比較的野菜を食べてくれるから安心だ。
 アルカージィが食べやすいようにとパンは一口サイズのサイコロ状に切ってやる。そこまでしなくてもと自分でも思うのだが、起き抜けのアルカージィにものを食べさせるにはそれくらいしてやらないと駄目なのだ。
 フライパンを熱してバターを引く。良い香りに目を細めながら食パンを入れて、キツネ色に焼けるまで炒めるようにして焼く。少し迷ったがチーズとハムは別に添えることにした。

 こうしてみると、いつもアルカージィのことを考えて食事を用意しているのだと、改めて気づかされる。もう少し甘やかすのを止めないとと思いながらも、心配でついつい、お節介ばかりやいてしまう。
 自省しながらヴァレリオは皿を出してきて、炒めた食パンを乗せた。別の皿には何種類かのチーズを少しずつ切り分け、一口サイズにしてから盛り付ける。ハムも同様だ。
 それらを食堂のテーブルへ運んだところで丁度スープもあたたまったようだ。軽くかきまぜて全体があたたまったことを確認してから火を消す。スープ皿に少なめによそう。
 溜息が漏れた。
 もう一日の半分が終わったのに、まだ嘘を考え付かない。

「……ヴァル?」
「え、……ああ……」
「何度も呼んだのに」
「すまない……ちょっと、考え事をしていて」
「ん? 何かあったの?」

 急に目が覚めたというようにアルカージィが身を乗り出して尋ねてくる。いっそ相談してみようかと思い立ったところで、先ほどのイルマの声が蘇る。今回は相談してはいけないのだった。
 取り繕うように笑みを浮かべてみせるヴァレリオに、アルカージィは首を捻っていたが、やがて諦めたようにテーブルについた。
 その後についてヴァレリオも、二人分のスープ皿を持って食堂へ向かう。
 二人で向かい合って席に着き、ヴァレリオが食前の祈りを捧げる。その間アルカージィは目を伏せて祈るヴァレリオの姿を観察する。人に聞かれれば必ず、神は信じてはいないけれど相方の祈る姿は好きだと惚気るだろうアルカージィだ。

「今日も私たちに糧を与えてくださったことを感謝します……」

 祈り終えるまでアルカージィが待っていてくれることを知っているからヴァレリオは、一人のときよりも少しだけ短く祈ることにしている。
 食前の祈りを終えてから二人でフォークを手にとる。パンをつまむ合間にアルカージィが小さな欠伸を漏らす。ヴァレリオは困ったように笑いながらそれを注意する。いつもの光景のはずだがアルカージィは手を止めて首を傾げる。

「ヴァル……、どこか悪いの?」
「いや、今日も体調は良いし、何も悪いところはないが……」
「でも、さっきから全然食べてないじゃない」

 風邪?とテーブル越しに伸びた手が、ヴァレリオの額に触れる。少し冷たいアルカージィの指が心地良い。熱をはかろうとして真剣な面持ちのアルカージィに、ついヴァレリオは笑みを零す。

「大丈夫だ。だから、早く食べてしまおう」
「本当に……?」
「ああ。大丈夫だよ」

 言いながらヴァレリオはパンを口に入れてみせる。アルカージィはまだ疑わしそうに見ていたが、やがて諦めたように食事に戻る。
 しばらくの間は無言で食事が続いた。
 パンがなくなり、アルカージィがニンジンを残してスープを食べ終わった頃、ヴァレリオはふと思いついて尋ねてみた。

「アルは、今までに嘘をついたこと、あるかい?」
「ん……? うん、あるけど……」
「どんなときに、嘘をついた?」
「え、なあに、それ。浮気調査?」

 慌てた様子で居住まいを正すアルカージィに、ヴァレリオも慌てて首を振る。浮気を疑うことなんて絶対にないと強く主張したところで、二人で顔を見合わせて笑いあう。
 しあわせだなと、思う。
 今まで嘘をつかなくてしあわせだったのだから、もしかしたらもう、エイプリルフールの嘘をつかなくても良いのかもしれない。そんなことを、思う。
 話してみよう。イルマには悪いけれど……。
 不意に、そう思えた。

「アル、エイプリルフールって知ってるかい?」
「今日のヴァルは唐突だね。……えっと、うん。知ってるよ」
「そのことなんだが……」
「シュバルツバルド共和国の方の風習だよね。たしか、かなり大昔に大きな改革を行ったとき、それに反発した人たちが馬鹿騒ぎしたことから始まったんだったかな……。午前中だけ、害のない嘘をついて良いって日だよね。ルーンミッドガッツ王国の方だと、あんまり流行ってないみたいだけど」

 すらすらと答えるアルカージィに、ヴァレリオは感心する。知識の量ではアルカージィに敵わないなと、いつも思うのだ。ひとしきり感心した後でようやくヴァレリオは気づく。どうやら、イルマから聞いた話とだいぶ違うような……。
 それをアルカージィに話してみた。
 イルマから聞いたこと、どう嘘をつこうか悩んでいたこと……。
 話し終わると、しばらくの間沈黙が続いた。アルカージィは俯いたまま肩を震わせている。何か変なことを言っただろうか。ヴァレリオが首を傾げる前で、アルカージィはとうとう吹き出した。
 吹き出した後はもう止まらなくなったらしい。最初こそあはは、と可愛げのある笑い方だったが、次第にもはや文字として認識できないような妙な笑い声をあげ始めた。

「ア、アル……?」
「あー、もう、ヴァルは……」
「エイプリルフールの捉え方が間違っていたのはわかったが、そこまで笑うことか?」

 涙を流して笑い転げるアルカージィに、少し拗ねた様子でヴァレリオが言う。それでようやくアルカージィは笑い止む。まだ顔が笑いたさそうにむずむずしていたけれど。

「ごめんごめん」

 目じりに溜まった涙を拭いながらアルカージィが悪びれずに言う。

「ヴァルがね、あんまり可愛いことするもんだから、つい」
「別に可愛くないだろう……」
「可愛いよ。だって、ねえ……」

 そこまで言ってまたアルカージィはこみ上げてくる笑いと戦うように身を折る。くくっと喉を震わせてはまた平静を保とうとする様は傍から見ていて苦しそうだった。

「わかった。笑いたかったらもう、素直に笑ってくれ……」
「うははは、ぷく、ぷへっへへへ」
「……………………」

 ヴァレリオの許しを貰うやいなや妙な笑い声を漏らすアルカージィだった。しばらく続いたその笑い声にヴァレリオは思わず額に手をあて、溜息をついた。
 長いこと笑って何とか落ち着いたのだろう。アルカージィの笑い声が止んだ。瞳には笑みをたたえたままヴァレリオを見つめてくる。まだ少し拗ねてはいたが、アルカージィに笑みを向けられるとつい微笑みを返してしまう。それくらい、ヴァレリオにだけ向けられるアルカージィの笑みは魅力的なのだった。といって、他の人にはあまり理解してもらえないが。

「そんな無理して嘘なんてつかなくたって、僕が不幸になるわけないでしょ」
「そういう風習があるなら、もしかしたらって思うじゃないか」
「あのね、ヴァル。ヴァルが傍にいるのに僕が不幸になることなんて、あると思うの?」
「……っ」
「馬鹿だなあ……」

 溜息をつきながらのアルカージィの言葉なのに、声はどこまでも愛しげであたたかくて、ヴァレリオは顔を伏せる。何だかとても、変な顔をしてしまいそうだった。

「悪かったな」

 嬉しさを押し殺すようにわざと拗ねてみせる。アルカージィが席を立つ音が聞こえた。そのままじっとしているヴァレリオの背後から、アルカージィの腕が回される。
 ぎゅっと抱きしめられた腕の中で耳元にアルカージィの唇が触れる。

「……そんなところも愛してるよ」

 胸にいとしさが満ちる。
 肩越しに振り向くと自然と互いの唇が重なりあう。
 その瞬間が最高にしあわせで、ヴァレリオは目を閉じる。
 幸福だけを味わうようにそっと……。

 * * *

 その頃のオークダンジョン前。
 イルマは入り口の段々のところに腰かけて日向ぼっこに興じている。その横ではカプラの倉庫サービスを利用している騎士の姿があった。イルマの実兄だ。彼女によく似た髪をきちんとセットしていて、人の良さそうな顔を余計にそう見せている。

「ご、ごめんねイルマさん。もうちょっとだけ待ってね」
「私は構いませんけれどお兄さま、臨時のときはちゃんと出かける前に確認してくださいませ」
「気をつけます……」
「そうそうお兄さま、今日はエイプリルフールでしたわね」
「あ……、そっか。今日でしたね。忘れてました。イルマさんは……その様子だとちゃんと午前中に楽しんできたみたいですね」
「ええ、勿論。せっかくですから今年は、ヴァレリオさまを騙して参りました」

 さらっと言われた言葉に騎士は硬直する。
 あんなに騙しやすそうな人を騙すなんて。もし何かあったらマスターがとんでもないことをしでかすんじゃないか。そうしたらやっぱり妹の責任をとって兄である自分が何とかしないといけなくなって……。
 頭の中が程よくいっぱいいっぱいになったところで、倉庫を覗き込んでいた顔をぎこちなく妹へ向ける。当の本人は慈母めいた笑みを浮かべてうっとりと、視線を青空へ向けていた。

「お兄さまは心配性ね」
「あのマスターは絶対に暴れさせちゃいけない人だと思うんです」
「大丈夫ですわよ。ヴァレリオさまがいますもの」
「そうは言うけどね、イルマさん……」
「お兄さま、エイプリルフールの嘘は、害のないものと決まっているでしょう?」

 にこやかな笑みを向けるイルマに無言のまま頷く騎士。どうも妹には頭が上がらない様子である。イルマは微笑んだまま、人差し指を一本立ててみせる。

「私のついた嘘は、害がないどころか、お二人を幸せにするものですもの」
「そ、それなら良いんですけど……」
「ほら、お兄さま。早く支度なさらないと、日が暮れてしまいますわよ」
「ごめんなさい。今支度してきます」

 慌てて再び倉庫を覗く兄の姿に、イルマはまた笑みを浮かべる。
 見上げる空は青く澄んでいて平和であたたかだった。
 兄が準備を終えるまでの間イルマは日光浴を楽しむ。
 今日は夕食を外でとってきた方が良いかもしれない、なんて考えながら。



end

















2006/04/01
  Poisson d’avril ヽ(´ー`)ノ