「ヴァル……、ヴァル。起きれる?」
「ん……、ああ……」

 喉の腫れに掠れる声でヴァレリオが小さく頷く。
 アルカージィの手に助け起こされてようやくベッドに座り込んだ。

「それにしてもまさかヴァルが風邪ひくなんてねえ。鬼の霍乱ってやつ?」

 笑いながらのアルカージィの言葉にも、今日はツッコミが入らない。
 切れのないヴァレリオに少し寂しげに項垂れるアルカージィだった。
 湯気を立てたスープ皿とスプーンをヴァレリオへ差し出す。
 中に入っているのはどうやらおかゆらしい。
 ありがとう、と弱々しく微笑みながらヴァレリオが受け取る。
 スプーンですくい、そっと口を近づけて……

「う……っ」
「どうかな。今日のは自信作なんだけど」
「ア、アル……。これ、……何……」
「何って」
「鼻が詰まってるのに匂いが……」
「僕特製の『おかゆの蜂蜜がけ、摩り下ろしリンゴを添えて』だけど?」
「……たのむから恐ろしいことを平然と真顔で言わないでくれ」

 顔色を変えるヴァレリオに、アルカージィは不思議顔だ。

「だって、風邪を引いたときはね、
 おかゆと、蜂蜜と、あと摩り下ろしリンゴが良いってお祖母ちゃんが言ってたもん」
「だ、だからって……」

 全部をいっぺんに纏めるな、と言いたい。とても言いたい。
 オートミールならまだしも……。
 スプーンをひっそりと戻そうとする。が、アルカージィの視線に動きが止まる。
 ベッドサイドの椅子に腰掛け、頬杖をつきながら一心にヴァレリオを見つめている。
 そんな恋人の期待の眼差しに引くに引けなくなる。

「アル……あーんして」

 どうせ味見をしていないのだろうからと、
 おかゆを乗せたスプーンをアルカージィの口へ向ける。

「ん? うん。……あーん」

 滅多にしてもらえない「あーん」にアルカージィは反射的に口を開けて咥え込む。
 凄まじく甘ったるい香りのするそれを平然と咀嚼する。
 見ているだけで少し、ヴァレリオは胸焼けした。

「うん、美味しい。さすが僕!」
「そ、そうか……。なら、全部食べても良いからな……」

 満面の笑みと共に胸を張るアルカージィに、
 肩を落として溜息をつくしか出来ないヴァレリオだった。

Thank you for your clap !