室内には明るく静かな光がさんさんと降り注ぐ。露店も商店もない民家だけが立ち並ぶ辺りだからか、プロンテラ市内だというのに、中央通の喧騒が嘘のように遠く、静まり返っている。 しっかりと閉ざされた窓にはレース編みの清楚なカーテンがかかっている。窓辺には小さな鉢植えの花がひとつ置いてある程度で、他に装飾らしきものは見当たらない。小さな本棚と物書き机にクロゼット、他にはベッドがひとつあるばかりだ。 ベッドの上にはふたつの人影がある。ひとつは、くすんだ金髪をオールバックにして僅かに前髪を数本額へ垂らした青年。もうひとつは、深い青の髪で片目を隠すほどに髪を前へ下ろしている、少し年下の青年。ヴァレリオとアルカージィだ。普段なら常に身に着けているはずのプリーストとウィザードの衣装は、やわらかそうな上掛けと共に床へ落ちている。 二人とも一糸纏わぬ姿のままでベッドに横たわっている。アルカージィの腕の中に、目を閉じて体を預けるヴァレリオの姿があった。昂ぶった自身を挿入したまま、アルカージィはヴァレリオの胸へ指を這わせる。弄り倒した胸の突起を爪の先でつつくと、ヴァレリオが小さな声を上げて目を開く。途端に、ひくんと入り口が収縮して、自身を締め付けられたアルカージィもまた小さく声を漏らす。 「アル、……そろそろ、良いだろ……? っぁ、……」 「まだ、やだ」 子どもが拗ねるような口調のアルカージィが、ヴァレリオの耳たぶを軽く噛む。面白いように体が跳ねるのをぎゅっと抱きしめて至福に浸るアルカージィだ。 「だってヴァル、なかなかさせてくれないから」 「だからって、こんな昼間から……っ」 「夜にしたら『明日に響くから』って、させてくれないじゃない」 「ん、――……っふ、……」 恨み言を並べ立てながら、細い指をヴァレリオ自身へ絡める。何度か放った精で濡れるそれを軽く扱くと甘い掠れ声が唇から零れる。先端を爪で軽くかりかり掻く。低く抑えられた声が混じる吐息を漏らしながらヴァレリオが堪えきれずに身じろぎ、緩く腰を揺らした。それに合わせてアルカージィも緩やかに自身でヴァレリオの体内を掻き回す。 片手で胸を弄り、もう片方の手でヴァレリオ自身を弄る。それだけでも興奮するのに先ほどからずっと自身をヴァレリオへ挿入している。もっと焦らしたいのにアルカージィも限界が近く、それが口惜しい。 不意にヴァレリオが身を硬くした。入り口が断続的に収縮してアルカージィを締め付ける。達しかけているのに刺激が足りず達せないのだろう。強い快楽を与えられ続ける苦しさにヴァレリオの瞳に涙が滲む。懸命に唇を噛んで声を堪えようとする様が愛しくて、アルカージィもそっと吐息を漏らす。 胸を弄っていた指先を伸ばしてヴァレリオの下唇を辿る。決してごつくはないが華奢でもない肩がびくんと震える。左肩にはひとつだけ、大きな太刀跡が残っている。それを愛おしむように指でなぞり、また胸の突起へと下りていく。 「ん、っ……。アル、……わかった、から……。もっと頻繁に、して……ふ、ぁ……っ、良い、から。だから、……も、う……」 切なそうな涙に濡れた声が艶かしい。抱きしめているアルカージィの腕にすがりつくように、震える指が掴まる。ぎゅっと指先に力が篭ると爪が立って少し痛い。僅かな痛みは逆にアルカージィの興奮を煽る。 「……本当?」 「本当……、ん、……」 「やった」 弾む声で言って満面の笑みを浮かべるアルカージィだった。意趣返し、とでもいうようにヴァレリオの指先に力が篭る。今度は少し痛かったが、幸せに浸るアルカージィは全く気にならないようだった。 親指でヴァレリオ自身の先端を擦りながら、中指の腹で時々裏筋を撫でる。戯れるような先ほどまでの動きとは違い、射精を促す力加減だ。ヴァレリオがしがみついた方の腕も、指の先で突起をつまみ、軽く捻るようにしながら刺激する。 腰を緩く揺らすと、ヴァレリオがそれに合わせて腰を揺らがせる。顎先を上向けるヴァレリオの首筋にアルカージィが唇を寄せて強く吸う。 「首は、駄目……っ」 「……ん……。ヴァルは襟全部止めちゃうから、平気でしょう?」 「そういう問題じゃ……、……ん、ふぁ……」 背を反らしてヴァレリオが小さく悲鳴めいた声を上げた。何度も何度も入り口が締まる。刺激に耐え切れずアルカージィはそのままヴァレリオの中で精を放つ。ヴァル、と耳元で名を呼ぶと、腕の中の体が小さく跳ねる。 「ヴァルも、イって?」 「ぁ、っふ……は、あ――……!」 アルカージィの指の動きが早くなり、押し殺した嬌声が長く尾を引いて室内に響く。その声に刺激されて腰がまたずくんと疼くのをアルカージィは懸命に抑える。 びくんとまたヴァレリオの背が震える。きつく瞑った瞼の端から快楽の涙を零しながら、声もなく上り詰め、アルカージィの手の中に精を放った。 「馬鹿……」 荒い息の合間にヴァレリオが掠れた声で呟く。呟きを聞くと、ヴァレリオの中に埋め込んだままの自身がまた熱をもつのを感じる。それがダイレクトに伝わるからかヴァレリオも小さく身を震わせる。 その耳たぶをまた軽く食みながらアルカージィは囁く。 「ごめん、もう一度だけさせて」 「……っ馬鹿……」 「…………駄目?」 無言のままヴァレリオが前を向く。怒らせてしまっただろうかとアルカージィがしゅんとしていると、ヴァレリオが僅かに熱の篭った吐息をついた。 「駄目とは、言ってない……」 ヴァレリオは、わざと呆れたような諦めたような声で告げる。己の思いをしっかりと自覚しているからこそ言えないし、言いたくなかった。アルカージィなら本能的ともいえる何かで悟ってしまうかもしれないが、それなら気づかないふりをして欲しい。 あたたかい腕の作るやわらかなこの束縛が心地よすぎて拒めない、なんて。 end
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