Stand by me サンプル


 深夜二時。ギルドハウスの内も外も静まり返っている。皆、眠っているのか狩りに出ているのか。おそらく後者だろう。今週こそは砦をとるのだと気合を入れていた。
 ギルド内の熱気に感化されるようにして私もまた、部屋に引きこもり黙々と製薬を続けていた。
 聞こえるのは乳鉢の中で潰れていく薬草の僅かに水っぽい音。寝ぼけたように鳴く鳥の声。気紛れに吹く風と対話する窓ガラスの微動。その程度だった。
 私一人が世界に存在しているかのような錯覚を味わう。一瞬で消えるその感覚はどこか甘い。
 できあがったばかりの白ポーションを瓶に詰める。細長い瓶の底から湧き上がるようにして液体が溜まっていくのを見ている間は、睡眠不足の辛さも忘れられる。
 八分目まで液体を注いでから蓋を閉める。密度の高い液体が詰っているとは思えないほど、この瓶は軽い。
 何千何万と薬品をつくり、世に送り出した。気がついたときにはランカーだのクリエイターだのと呼ばれるようになっていた。それでも、この瞬間には言いようのない達成感を覚える。あるいはこの途方もない満足感のために今でも製薬一筋の生活を送っているのかもしれない。
 あらかじめ用意しておいた幅の狭いラベルを貼り付ける。
 《ベリル・デュランド》――私の名だ。
 できあがったスリム白ポーションを割れないよう箱に詰める。百個入りが十一箱。あと一箱分作るか、それとも塩酸を余分に作っておくか。考えたところで痛みを覚えた。心臓のあたりだ。何かしらの病や不調があるわけではない。何故と自問するまでもなく原因はわかっている。
 昼間の狩りだ。厳密には昼間の狩りに共に参加したギルドメンバーたちの言っていた言葉が、というべきか。





その他。
 おまけで、シーチキンさまのラフイラストつきなキャラ紹介とかも入ってます。