歩き出した君へ











「モモちゃ〜ん!どこですか〜〜〜?」



夕暮れの迫る大聖堂の裏庭にラヴェルのモモを探す声が響く。
友人の司祭が飼い主であるポリンのモモは、聖堂孤児院では子供たち皆のアイドルである。
さらに子供たちの教育にも一役買ってくれていて、情操教育の協力者でもあった。


子供たちと遊んでくれていたのを見た後、ふと見るとモモの姿がない。
もうすぐ夕暮れになるというのに、まったく姿を現さないのだ。
どこかで昼寝でもしているか、はたまた迷子にでもなったか・・・・
大聖堂または併設された孤児院の中にいてくれれば、安全だし心配はないけれど。


最近は何かと物騒だから、皆で手分けしてモモを探しているのが今の状況。
ラヴェルの担当は大聖堂の内部で、外に出ることは禁じられていた。
夕暮れより後に一人で行動してはいけないという、破ってはならない約束がある。
だからラヴェルは大聖堂の廊下を、隅々までキョロキョロと見て回っていた。



「モーモーちゃ〜〜〜ん!もうお家に帰る時間ですよ〜〜!!出てらっしゃ〜い!」



扉を開けて中を覗くも、やっぱりいなくてパタンと静かにそこを閉める。
この辺りの廊下は入り組んでいて、普段歩き慣れていないと迷う可能性が高い。
聖職者であれば入れる場所だが、普段から大聖堂に出入りしていても、この廊下を通っていなければ迷うことは十分にありえる。
そして大聖堂の聖職者でも滅多に近寄らない場所に辿り着いた。
どうして滅多に使わないかというと、罪を犯した聖職者を説教する為の部屋があるからだ。
滅多なことでは使用されないが、暗黙の了解で人はあまり近寄らない。


ふと聞き覚えのある声が聞こえてきたので、ラヴェルはその扉の前で足を止める。
じっとして耳を澄ませると、確かに中から人の話し声が聞こえてきた。
その片方の声は間違いなく探しているモモの声。
もう一つの声は若い男性の声で、聞き覚えのあるその人は・・・・



「・・・・・アウレーリエさん・・・?」



ラヴェルは扉の取っ手を持ち、そっと扉を押し開けた。
中では一人の青年司祭と、ポリンのモモがお話をしているようだった。
あぐらをかくように座り込んでいる紫の髪の司祭と、彼の腕に抱っこされて楽しそうにはしゃいでいるモモの姿を目撃する。
寝癖のついた紫の髪の青年司祭アウレーリエは、いつも不機嫌そうに顔を顰めていて、他人をまったく寄せ付けない男だった。
まるで自分以外は全て敵であるかのような、荒んだ目をした人だった。


その彼がラヴェルの姿を見て、ぴたりと話すのをやめてしまう。
眉間にうっすらと皴を寄せて、ふい・・・とモモからもラヴェルからも目を逸らす。
ラヴェルは慌てて了解もなく入ってきたことを詫びる。



「あっごめんなさい・・・人がいるとは思わなくて・・・」

「・・・・別に・・・俺の部屋じゃない。」

「あ〜ラヴェルママ〜〜!!あのねーあのねーこのお兄ちゃんとねーお話しをしてたのですよーーっ!!リエちゃんは迷子になったのですよ!!」

「違うっ!・・・・・ま、迷子じゃない・・・・ちょっと帰り道に違う道を通ってみたら、出口が見当たらないだけだ。迷子じゃない!」



完璧に迷子そのものだと思うのだが、彼は迷子ではないと言い張る。
モモは『え〜迷子です〜〜リエちゃんは素直じゃない困ったちゃんっなのです〜〜』
とか言ってアウレーリエに横に引っ張られていた。



「いひゃいいひゃいっ!」

「あの・・アウレーリエさん・・・モモちゃんを許して上げてください・・・」

「・・・相変わらず良い子ちゃんだなアンタ・・・」

「・・ご、ごめんなさい・・・・でも、痛がってますから・・・貴方も好きな人に頬をつねられたら悲しいでしょう?お気に障ったのでしたらお詫びします。」

「アンタが謝ることないだろ・・・あー・・・もう、本当に調子狂うなアンタと話してると。俺の我侭にまで変な気を回すな。俺が困る。」

「アウレーリエさんはここで休憩なさっていたのですね。じゃあ私と一緒にモモちゃんをご主人様の所に連れて行くのを、手伝って頂けませんか?」

「・・・ど、どうしてもっていうなら・・・・手伝ってやらなくもない。」



横を向いて少しだけ頬を染めるアウレーリエは、以前の刺々しさがかなり和らいでいた。
以前は抜き身の刃物のようで、ラヴェルも一度手酷く拒否されたことがある。
その時の彼の瞳は追い詰められていて、あまりにも悲しい目をしていた。



『どうせアンタも俺を汚れているって目で見るんだろう・・・哀れんで優越感に浸りたいんだろう?お前らはいつもそうだ・・・放っておけよ俺のことなんか!!』



そう言ってラヴェルの手を振り払った彼。
ラヴェルはそんな気はまったくなかったが、口で言ってもただの言い訳でしかなくて・・・
アウレーリエが汚れているとか、夜な夜な男を漁りに酒場をうろついているとか、そういう噂はもちろん耳にしてもいたけれど、それ以上に彼の荒んだ目が心配だった。


手負いの獣のように周りを威嚇しながら、どんどん弱っている彼に何の力にもなれない自分の無力感に苛まれたことだってある。
全ての人を救うなんてそんなことは出来ない。わかっている。
せめて手の届く人の助けになりたいと、ラヴェルはいつも願っていたから彼のことがとても気になっていたのは事実であった。


昼間は奉仕に身を捧げるアウレーリエだが、夜は別の顔を持ってることも知っている。
けれどそれがなんだと言うのだろう。アウレーリエは誰かに迷惑をかけているわけじゃないし、誰かを傷つけたりしているわけでもない。
寧ろ傷ついているのはアウレーリエなのに、彼を責めることなど考えられない。


いつも同じように彼と話をして、同じように身体に触れる。
握手や肩を叩くなど、友人や同僚ならばごく当たり前の仕草。
アウレーリエがラヴェルにそうされる度に、意外そうな顔をするのを笑顔で流して。
実際彼の噂を知りつつ、態度を変えなかったのは片手で数えるくらいの人数だ。


あの頃から比べたら、今のアウレーリエの変りようはどうだろう?
とても同じ人物とは思えないほどに、彼を包む空気が違う。
淀んだ冷たい空気が無くなり、代わりに包むのは優しい空気をもった何か
きっと彼の周り・・・最も近くにいる人の空気だと思う。


彼はきっと居場所を見つけたのだろう。
彼にとって自分を偽らずに、彼を受け止めてくれる誰かが・・・



「ちょっ・・おい・・何だよラヴェル・・・?」

「・・・・・・何となく撫でたくなりました。」

「はぁ??お前じゃなかったら殴り飛ばしてるぞ・・・」

「ごめんなさい・・・でも嬉しくて・・・私、嬉しくて貴方を抱き締めずにはいられません!!」

「おっおい!!・・こ、こら〜〜っ!!」



頭を撫でて頭を胸に抱き締めるラヴェルは、心底嬉しそうでアウレーリエは首を傾げた。
何がそんなに嬉しいのだろうか?モモが見つかったこと・・・??
アウレーリエがそう聞くと、ラヴェルはさらに嬉しそうに笑う。



「ずるいずるいずるいっ!!リエちゃんだけラヴェルママにナデナデしてもらってズルイですーーーーっ!!!モモも〜〜っモモもナデナデして下さーーーい!!」

「はいはい、モモちゃんも一緒にアウレーリエさんの頭を良い子――って撫でましょう!」

「わーーいっ!!」

「こらっ!俺の頭に飛び乗るなよモモ!!あーもうっラヴェルもいつまで撫でてるんだってーの!!や、やめろってば・・・・恥ずかしいだろう!!」



顔を赤く染めているアウレーリエは、嫌がりながらもラヴェルを振り払うことをしない。
以前ならば容赦なく振り払われて、すでに逃げられていただろう。
ラヴェルは穏やかな微笑を湛えながら、アウレーリエに語りかけた。



「アウレーリエさん・・・・貴方の居場所は見つかりましたか?」

「・・・っ!?」

「貴方と貴方に変化を齎したその人に、主のご加護がありますように・・・・貴方に優しい変化を与えてくれた、その天使様と貴方がいつまでも幸福でいられますよう・・・影ながら祈っています。良かったですねアウレーリエさん・・・本当に良かった・・・」

「・・・ラヴェル・・・」



慈愛に満ちたいつの日も変らない笑顔で、ラヴェルはアウレーリエに微笑む。
アウレーリエは一瞬声を詰まらせて、ラヴェルの胸に顔を伏せた。
小さく・・・聞き逃してしまいそうなくらいに小さく、彼は呟く。



「・・・ありがと・・・俺、今・・・幸せかもしれない・・・」



あくまでも素直ではない彼らしい物言いで、反対に安心した。
ラヴェルは4つ年下で10cm近く背の低い、紫の髪の同僚をぎゅっと抱き締める。



「貴方に天なる父と良き聖霊の導きがありますように・・・・」






















「リエちゃんは迷子になって泣いて、ラヴェルママにイイコイイコしてもらってたですっ!!モモは泣かなかったから、超!エライのですーーーっ!!リエちゃんは泣き虫さん〜〜苛めちゃメッです!!」



モモが得意げにそう言い回った為、アウレーリエの噂は一つ増えることになった。
だがこの一件以来アウレーリエの風当たりは、大分治まってきたという話しである。




教訓


モモに秘密を知られたら、全ての人に知れ渡ると思え。












END


ねこしか様への捧げ物小説2書いてしまいました。
メッセで約束した通り、モモとリエちゃんが迷子になってラヴェルに発見されるというお話しです。難しかった・・・でも楽しかった!!
キャラをゲストにしてお話し書いてみようと、ねこしかさんと、某同盟管理人様と約束を交わして出来上がったお話しでした。
ねこしかさんのファンの皆様、ごめんなさい!
まったくのパラレルワールドですのでどうぞ多めに見てやってください・・・。・゜・(つД`)・゜・。


ねこしか様へ。ちょっと時間かかっちゃってごめんなさい!
ご満足いくかはわかりませんが、どうぞお納めを・・・m(_ _;)m


平成18年7月29日  らうるす拝















|ω・`)<ねこしかですっ

 こんな素敵な小説いただいてしまって良いんでしょうかと怯えつつ
ちゃっかりいただいてしまう私です(*ノノ)

 カシスさんが憧れの人ならラヴェルさんは初恋の人なのです。
 そんなプリさんと一緒に、うちの荒みプリが一緒に……!Щノx)・゚・
 しあわせすぎてゴローンしちゃう勢いなんですがどうしましょう!
 そしてアウレーリエがなんだかツンデレっぽい気配でどきどき(ノω<*

 らうるすさまの素敵なサイトはこちら
 白プリの聖地なのです。
 白プリ好きは行くしかないと思うな!(*゚∀゚)=3
 でも白プリ好きならきっともう読んでるんだろうなっていう(゚パ*)